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vol. 388 ベトナム語を話すために必要な3つの「力」

ベトナム語の勉強を始めたばかりのみなさん、もしくは勉強中のみなさんへ。

現在あなたはベトナム語の何を勉強していますか?

とりあえず参考書を買って、漠然と単語や文法を勉強している方も多いのではないのでしょうか。

その勉強の進め方、実は間違いです。

多くの人は学生時代の英語学習の習慣から、とりあえず最初に単語と文法から始めてしまう人が多いかと思います。

しかしそのやり方はベトナム語においては通用しません。

ほとんどの人はベトナム人と会話をすることが目的でしょう。話すことが目的であれば従来の英語学習のやり方に沿った勉強法では不十分です。

ではベトナム語を話すために何が必要なのか?

今回はベトナム語会話を習得するために必要な3つの「力」およびその勉強の進め方をベトナム語の特徴に基づきながら紹介したいと思います。

ベトナム語とはそもそもどういう言語で、どのような学習過程が必要であるのか、そしてベトナム語の何を理解し、何をコントロールすればちゃんとした成果が出るのか、それさえ知っておけばベトナム語は必ず上達します。

いざベトナム語を学ぼうと思ってもいったい何から始めたらいいのかわからなかった人や、ベトナム語学習の進め方に悩んでいる人など参考にしてみて下さい。

ベトナム語を話すために必要な3つの「力」

ベトナム語を話すために必要な力は以下の3つです。

  1. 発音力=ベトナム語の単語を正確に発音する能力
  2. 単語力=ベトナム語の単語をたくさん知っている能力
  3. 語順力=ベトナム語を適切に組み立て、並べる能力

①発音力

なぜ発音力が必要か

発音力とはベトナム語の単語を正確に発音する能力のことです。熟語でも文章でもなく、「単語」を正確に発音できることがポイントですよ。

ベトナム語において発音力は最も大事であり、必ず最初に身につけなければならない能力です。

それはベトナム語が「単音節の声調言語」という特徴をもつからです。

単音節の声調言語とは1音節内における音の高低の違いにより意味を区別する言語のことです。

ベトナム語での1音節とはtôiやănやViệtなどの各1単語をさします。

日本語でいうと「あ」や「き」などのひらがな1文字に相当する音の最小単位のことだと思ってください。

つまりベトナム語は1単語に必ず1つの声調を持っており、その様々な音の高低のパターンによって単語の意味を区別している言語というわけです。

その音の高低パターン、つまり声調はベトナム語では全部で6つあります。

日本語でいうと「ま↗」とか「ま↘」のようにひらがな1文字単位で音の上げ下げが6パターンあり、それぞれ意味を分けているようなものです。

だとすると、ベトナム語の単語をきちんと発音するためには、その6パターンの音をどのように上げたり下げたりするのかを知り、練習しなければなりませんね。

なんせ6つもありますから、なんとなくこう発音する、程度では身につきませんからね。人に説明できるくらい理解する必要があります。

しかもベトナム語の1単語を構成している音のパーツは声調だけでなく、母音や子音も重要な発音の要素になります。

具体的には6個の声調に加え、母音が11個、頭子音(単語の最初にくる子音)が24個、末子音(単語の最後にくる子音)が10個の計51個あります。

発音力とはつまるところベトナム語1単語を構成する51個のパーツのルールを覚えることです。

それらをきちんと理解し、発音できないとベトナム語の単語1つすらまともに読むことができません。

1単語すら発音できなければ熟語や文章も上手く話せるわけがありません。これは単語の意味や文法を覚える以前の問題です。

発音力を最初に鍛えましょう!

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なぜベトナム語学習は挫折しやすいのか

ベトナム語は習得が難しい言語だと言われています。

英語がペラペラな人でも、ベトナムに何年も住んでいる人でさえもベトナム語はさっぱり…という日本人はかなりいます。

ほとんどの人は最初の段階でベトナム語の発音をきちんと学ぶことなく、安易に単語や文法学習に走ってしまいます。

そうするとせっかく苦労して覚えた単語や会話表現を使おうと思っても、発音が下手なのでベトナム人に「hả?」と聞き返されます。何度言っても正確に発音しなければ「hả?」と言われるのみです。

このベトナム語のhả?は「えっ?」という意味なのですが、日本人からすると「はぁ?」と何か煽られている気がして、何度もhả?を連発されると腹が立ってしまいますよね。

ひどいときだとこちらはベトナム語を話しているのに、「私英語はわからないの」と別の言語を話していると思われてしまうことです。これはヘコミます。

せっかく覚えた単語や文法も発音が下手なら全て水の泡です。結局それで嫌になってベトナム語学習を諦めてしまいます。

最初の時点で間違った勉強アプローチをしているんですから、上手くいかないのも当たり前なんですけどね。

発音を笑う者はベトナム語に泣くんです。

だからこそ発音を最優先で、徹底的に学ぶ必要があります。

ここでは別にネイティブ並みの発音を目指せと言っている訳ではありません。ベトナム人に一発で通じる発音をすればそれで必要十分です。それがさきほど言った声調、母音、頭子音、末子音の計51個の発音ルールを覚えることなんです。

1000の単語よりも、100の文法項目よりも、51個の発音をまず先に勉強しましょう。

それだけであなたのベトナム語力はぐっと底上げされます。

発音力でリスニング力もアップ

発音力を鍛えることはスピーキングにだけ影響を与えるものではありません。ベトナム語の聞き取り能力にも大きな効果を発揮します。

そもそも脳内でベトナム語の音に対する「知識」がなければ、それをベトナム語として「認識」することはできません。ベトナム語をベトナム語として認識できなければただの雑音として聞こえてしまいます。

例えばnguyễnという単語は頭子音[ng-]や母音[uyê]や声調の「˜」を理解し発音できなければnguyễnをベトナム語の音としてきちんと認識できません。「nguyễn=グエン」なんてカタカナ音で覚えていたら永遠にリスニング力は向上しませんよ。

ベトナム語のリスニングができない、難しい…と感じている人はえてして発音力がそもそも足りていません。ベトナム語を聞き取る前に、きちんとそのベトナム語を発音できますか??と自問してみましょう。

また、ベトナム語の音声をひたすら聞き流す勉強もほぼ無意味です。

十分な発音力と単語力が備わっている中級者以上の方であればベトナム語に慣れるという意味である程度の効果は望めますが、ほとんどの人は地道な発音の勉強を怠って、ただ聞き流して勉強した気になっているだけです。

ベトナム語の音声を聞いているだけでベトナム語ができるようになるなら誰も苦労はしませんよ。それだと普段からベトナム語を聞いているベトナム在住日本人は全員ペラペラでなきゃおかしいはずです。でもそうはなっていませんよね?

リスニング力も発音力から始まります。地道な作業を怠けることなく発音力から鍛えましょう。

②単語力

なぜ単語力が必要か

ベトナム語を話すために必要な2つ目の力は「単語力」です。単語力はベトナム語の単語をたくさん覚え、アウトプットできる能力をさします。

どんな言語においても、単語力は語学の基本となる能力です。
ただベトナム語ではその「単語力」が特に大事になってきます。

それはベトナム語が語形変化が一切ない「孤立語」という特徴を持つからです。

例えば日本語では「行く」という動詞を覚える時、行かない、行きます、行った、などの動詞の活用の規則を覚えなければいけません。英語でもgo, went, goneなど過去形、過去分詞形の活用の仕方を覚えたりしましたよね。

一方でベトナム語の場合は「行く」という意味のđiは、điの形のままどんなことがあっても絶対に変化することはありません。

では日本語の行かない、行きます、行ったのような語形変化をベトナム語で表すにはどうすればいいのでしょうか?

それは新たな単語を加えることによって成立します。

行かない、行きます、行ったはそれぞれベトナム語でkhông đi、sẽ đi、đã điとなります。ここでもđiは他の単語に影響されることなく、一切変化することはありません。

つまりベトナム語では語形変化の規則の代わりに、Khôngやsẽやđãのように動詞にある性質を付加させる単語を新たに覚えなければならないということです。

だからベトナム語においては単語力がそのまま文法力に直結します。

また、日本語では「行った」という形の意味を知らなくても、「行く」という基本形を知っていればある程度の推測は可能です。しかしベトナム語のđã điという表現では、đãという単語を知らない場合、điからその意味を推測することはまず不可能です。

このようにベトナム語は「語の形(điという見た目)」から「別の語(đãという新たな語)」を類推することは基本的に無理です。

このように各単語が影響を与えることなく独立(孤立)した存在で成り立っているの言語を「孤立語」と言います。「孤立語」はベトナム語の大きな特徴です。

だからこそベトナム語では「đã」を「〜した」のように新たな単語として追加して覚えておく作業が必要になります。

ベトナム語の文法力を高めるためにはとにかく四の五の言わずに、怠けることなく新たな単語を覚えることに精力を注がなければならないということです。

また、ベトナム語は声調言語なので音の高低が各単語に厳密に決められています。だから日本語の「元気?⤴」のように語尾を軽く上げて疑問文を作ることなどはできません。

このような場合でも、ベトナム語では疑問を表す「à? 」のようにその文に特定のニュアンスを付加させる機能を持つ語気詞(文末詞)と呼ばれる新たな単語を加えなければいけないのです。

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単語力を支える「漢越語」

単語を覚えていく上で欠かせないのは、漢越語の知識です。

漢越語とは中国の漢字由来のベトナム語のことで、漢越語はベトナム語の全単語の60〜70%を占めています。

「chú ý=注意」となるように、漢越語は日本語の漢字の音読みと類似し、意味と単語を結びつけやすくなるので、単語学習の効率を高めます。

つまり漢越語によって、日本語の漢字の知識をベトナム語の単語学習に応用できるということです。日本人ならこれを使わない手はありません。

漢越語の知識を増やす時のポイントは、辞書を引く時に「この単語は漢越語なのか?」を常に意識することです。全単語の60〜70%なので相当な確率で漢越語に出会いますよ。

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ちゃんとした辞書ならベトナム語の横に【】で漢字が書いてあります。漢字がある場合は単語の意味と合わせて覚えておきましょう。

漢越語はあとからジワジワきいてくる

漢越語は基本的な単語から難解な単語まで幅広く分布していますが、実は漢越語が本領発揮するのは中級レベル以上の読解をする時です。
例えばベトナム語の本や新聞のニュース記事などを読む時などです。

日本語でも難しい文になれば漢字の熟語の割合が増えるように、ベトナム語も書き言葉で文が難しくなればなるほど漢越語の割合は増えていきます。

例えば最近のThanh Niênモバイルニュースのトップ記事の見出しを見て下さい。

Thủ tướng yêu cầu thanh tra dự án ‘quốc lộ ngàn tỉ như ruộng cày
首相は何兆円もかかった田んぼ道のように劣悪な国道プロジェクトを監査するよう要請した。

という文があります。そのうち漢越語は

・thủ tướng【首相】=首相

・yêu cầu【要求】=要求する

・thanh tra【清査】=監査する

・dự án【予案】=計画、プロジェクト

・quốc lộ【国路】=国道

・tỉ【秭(シ)】=10億

・như【如】=〜のように

です。15語中なんと12語が漢越語です。すごいですね。

また、この文には見慣れない“thanh tra”という単語があります。これは書き言葉の単語で、日常会話ではほとんど使われません。

たとえこの単語の意味を知らなくてもthanh traは【清査】という漢字がくることがわかれば「きれいにきちんと検査することなのかなぁ」とあらかた予想ができます。

それだけでなく、仮に上の文の意味がすべてわからなくても、漢越語の知識があれば【首相】【要求】【清査】【与案】【国路】といった漢字に変換することができ、文全体の意味も推測できるようになります。

このように、漢越語の知識を使えば難解な単語や文章の類推もできるようになります。読解には欠かせない能力です。

漢越語は噛めば噛むほどあとからジワジワ味がきいてくるスルメイカのようなものです。漢越語の知識なくして単語力の飛躍的アップや高度な読解はありえません。

だからこそ勉強の始めの段階からコツコツと漢越語の知識を蓄えておき、いずれ出会う難しい単語や表現に備えておきましょう。

③語順力

なぜ語順力が大事なのか

ベトナム語を話すために必要な3つ目の力は「語順力」です。語順力とはベトナム語を適切に組み立て、並べられる能力のことです。

先ほど述べたように、ベトナム語はどんな場合でも語の形が変化しない「孤立語」という言語です。

では語形変化することがない孤立語の場合、品詞、格、活用、時制などの文法的機能はどうやって持たせればいいのでしょうか?

それはずばり「語順」です。ベトナム語は語の並べ方によって様々な文法的機能を与えることができます。

たとえば次の文を見て下さい。

・tôi gặp bạn tôi
私は私の友達に会った。

この文の最初と最後のtôiは意味と役割が異なります。

最初のtôiは文の先頭に置かれることによって主格の役割を持ち、「私は」という意味になります。
そして最後のtôiは前にbạn(友達)という名詞に後ろからかかっているので所有格の役割を持つ「私の」という訳になります。

いずれもtôiという語の形は変わりませんが、語順によって格(〜が、〜の)が与えられていることがわかります。

このように孤立語は他の語との文中での関連性によってはじめて意味や役割が確定されます。

ベトナム語は実は独立した個々の単語だけでは品詞が何なのかも曖昧で常に宙ぶらりんの状態です。

だから「○○の単語の意味は何?」と聞かれたら、「文中に存在してないのでまだ確定的な意味は成しえない」と答えるのが本質的な回答なんです。

ベトナム語は孤立語です。孤立しているからこそ意味やくわりを持つには他の仲間たんごが必要なのです。

語順力は簡単に身につけられる

ベトナム語の語順のルールはぶっちゃけ簡単です。

ベトナム語の基本語順はSVO(主語+動詞+目的語)や、修飾語は被修飾語の後ろに置かれるなど慣れてしまえば非常に扱いやすいシンプルなルールばかりです。

市販されているベトナム語の参考書を一通りやれば日常会話で十分に対応できる程度の語順力は身につきます。

ただし語順力をつけるには土台となる発音力がきちんと身についていることが前提です。発音があいまいなのに語順のルールを覚えても無駄な努力ですからね。気をつけて下さい。

ベトナム語は発音は世界一と言われるほどの鬼難易度だけど、文法であつかう語順のルールは驚くほどベリーイージーです。

みなさんも早く「ベトナム語って簡単じゃん!(発音は除く)」と言えるようになって下さい。

まとめ

ベトナム語を話すために必要なのは発音力、単語力、語順力です。

ベトナム語のスピーキング力とはベースとなる発音力に文法力を掛け合わせた総合知です。そしてその文法力は単語力と語順力を掛け合わせたものです。

つまり[スピーキング力=発音力×文法力(=単語力×語順力)]の式が成り立ちます。

ベトナム語はきちんとした発音で(発音力)、十分な語彙力を持ち(単語力)、それを適切な順番で並べれば(語順力)、ベトナム語は話せるようになるんです。