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vol. 350 ベトナム語検定試験がまた変だったのでツッコんでみた

みなさんお待ちかね!?のベトナム語技能検定試験の公式サイト(http://www.jtag.or.jp/)が3月1日に更新され、新たな情報が開示されました。

最初に開設して以来全く更新がなく、すでに終了した試験の情報をずっと載せてたりして、このサイト大丈夫か?と思っていましたが約1年ぶりに更新されました。生きててよかった!

さて、今回更新された内容は

  • 2018年6月に行われる試験情報
  • 過去問の公開
  • FAQ(よくある質問)の追加

です。過去問が公開されたのは大きいですね。ただ各級にたったの5問だけですが……

ちなみに前回の記事でトマトが指摘してあげた「簡単すぎる上に間違った例題」がなくなりました。

今はもうない「レベルの割に簡単すぎる上に間違ってた例題」 参考:vol.189 ベトナム語検定のサイトが色々と変だったのでツッコんでみた

絶対に自分の記事を見て修正してるのに、何も礼もなくしれっと直され、しまいにはなかったかのように消されてしまいました。なんとも残念です。

それでも「たったの5問しかない過去問の中からでもわかる傾向と対策」の記事を書こうと思ったのですが、調べているうちに新たなツッコミどころが色々と見つかってしまい「この検定試験はそもそも受験する価値があるのか?」と考えました。

今回はその新たなツッコミどころをみなさんに紹介致します。受験するべきかどうか悩んでいる人達への参考になれば幸いです。

ベトナム語検定試験の新たなツッコミどころ

①驚異的な低合格率

公式サイトには載っていないのですが、前回受験した人宛に送られてきた受験案内に前回の試験の合格率が書いてありました。

左上のマークがベトナム航空のロゴマークとそっくりなのは気のせい?

全体的に合格率が低いですね。受験した人達からは「難しかった」という声が多かったのですが、実際に本当に難しかったのでしょう。

特に4級、5級の合格率が2級、3級よりも低くなっていることに驚きです。

通常の検定試験では易しい級ほど合格率が高く、難易度が上がるにつれて合格率が低くなっていきます。

参考 : 中国語検定、インドネシア語検定、タイ語検定の各級の合格率

中国語検定 タイ語検定 インドネシア語検定
準4級 63.7% 5級 53.9% E級 75.0%
4級 52.9% 4級 42.2% D級 51.9%
3級 38.9% 3級 28.2% C級 29.0%
2級 34.3% 2級(1次) 4.0% B級 7.7%
準1級 22.2% 1級(1次) 0.0% A級 4.1%
1級 4.5%   特A級

※それぞれ「日本中国語検定協会(http://www.chuken.gr.jp/)」の第93回 (一次)試験、「実用タイ語検定(http://www.thaigokentei.com/)」の第29回2017年秋季試験、「インドネシア語技能検定試験(https://www.i-kentei.com/index.html)」の第51回試験を参考。インドネシア語技能検定は出願者数、合格者数から算出。

しかしベトナム語検定ではその合格率のバランスが崩れています。

これは各級のレベル設定に統一性や一貫性がなく、作問側もそれをきちんと把握していないからでしょう。

公式サイトに合格率を載せてないのも載せたくない事情があるからなのかもしれません。

②各級のレベル基準が他からのパクり

さらに調べてみると驚くべきことにサイトの各級の「評価基準と査定内容」の部分が日本語能力試験の認定の目安(http://www.jlpt.jp/about/levelsummary.html)の部分をほとんどパクっちゃっています。

日本語能力試験N1とベトナム語検定1級の比較画像。ほぼ丸パクリなのがわかります。
N2と2級の比較。表現を少しだけ変えているのがまたいやらしい。

他にも4級の内容が「まるごと 日本とことばの文化」の初中級の教え方のポイント(https://www.marugoto.org/assets/docs/teacher/resource/pre_intermediate/preintermediate_teachers_notes.pdf)の部分をほぼ丸ごとコピペしています。

元が「テクスト」なのを「テキスト」と書いているのは単なる書き間違い?

他の級も日本語能力試験の目安から取ってつけたような表記の仕方が散見されました。

コピペしてること自体アウトですし、日本語とベトナム語という言語の性質が違うものを同じ基準で評価することそのものがナンセンスです。

そして検定試験側が各級の評価基準や難易度を独自に設定していないのは明らかです。

さきほどの合格率のバランスが悪くなるのもこれで納得ですね。だって各級のレベル設定が大した基準もなくガバガバなんですから。

③ベトナム政府の公認なし

通常、他の国の語学検定試験ではその国の政府や行政機関、大学などからの公認や支援を受けている場合が多いです。しかしベトナム語検定にはまだそういった所からの公認などは一切ありません。FAQにも以下のように書かれています。

※要約すると「公認をもらえるように頑張ってます」ということです。

そしてこの文章そのものにもツッコミどころはあります。

まず「教育省と訓練省」ではなく「教育訓練省(bộ giáo dục và đào tạo)」が正しいです。あたかも2つ省があるかのように書いてますが間違いです。

また、基準にしているらしい「外国人のためのベトナム語能力の枠(https://thuvienphapluat.vn/van-ban/Giao-duc/Thong-tu-23-2017-TT-BGDDT-thi-danh-gia-nang-luc-ngoai-ngu-theo-Khung-nang-luc-ngoai-ngu-6-bac-363395.aspx)」を見ると、そこには抽象的な枠組みがダラダラと書かれているだけで、いったいこの枠組みのどこの部分を基準にしたのか、全く見えてきません。

さきほどのコピペを見ても試験形式を見ても明らかに日本語能力試験のやり方をパクっているのですが、そういうことは一切書いてないのが他から盗用してきた感をより助長させています。

そもそもベトナムの省庁の名前を間違うような姿勢でベトナム政府の公認をもらえる努力は本当にしてるんでしょうか?かなり疑問です。

④東京会場以外での実施予定なし

FAQにもあるように、ベトナム語検定試験は前回も今回も受験できる場所は東京のみです。

※ベトナム国内でも認知をさせたいのにベトナムで試験の実施をしないというのも変な話です。

ベトナム領事館があり、ベトナムとの関係も深い大阪や福岡などに会場を設けないのはなぜなのでしょうか?

さらにこの書き方だとホーチミンやハノイなどベトナムで実施する予定は今後もなさそうです。ベトナム在住の日本人もベトナム語を必要としているのですが、本当に普及させる気あるのでしょうか?

この試験は「日本で受験できるベトナム語検定試験」と謳っていますが、「東京だけでしか受験できないベトナム語検定試験」というふうに変えたほうがいいでしょう。

⑤受験会場となった専門学校が大きく絡んでいる可能性大

この検定試験には受験会場となった「日本外国語専門学校(http://www.jcfl.ac.jp/course/curriculum/a-se.html)」が大きく関わっている可能性が大きいです。

この専門学校のベトナム語コースには「ベトナム語検定対策」なる授業があります。

そこには以下のような内容で紹介されています。

2年かけて3級を取得するらしい。いったいどんな授業をするのか気になります。

「準6級」「3級」と具体的な級数まで書かれています。普通あれだけのいいかげんなレベル設定で、まだ過去問もほとんど出ていないのに具体的な対策をとることはまず無理です。

ということは、この専門学校のベトナム語関係者が検定試験に大きく関わっており、関係者しか知りえない検定試験対策をこの学校で行っているということなのでしょう。

穿った考えですが、「合格率が低いベトナム語検定試験でもうちの学校の対策授業を受ければ合格できますよ!」的な算段がなされている気がします。

過去問をほんの少ししか公開しない、東京にしか会場を置かない(置けない)のもこの専門学校が大きく関わっているからなのかもしれません。

まとめ 様子見かスルーでOK

もし本当にベトナム語検定を広めるつもりなら、すでに行われているホーチミン市人文社会科学大学のベトナム語試験を参考にしたり、ベトナム語の著名な教授※などを呼んで作問委員会を作ったり、在日ベトナム大使館などに後援をつけてもらうなどして、試験内容の質を高めながら大学や行政を巻き込む形で箔と信頼をつけて展開していくのが定石です。

※過去には著名なベトナム語学者たちが「日本人学習者を対象としたベトナム語検定試験制定のための基礎的研究」と題した先行研究を行ってもいます。こういったところを参考にしてもいいでしょう。

しかし現在このベトナム語検定試験が開示している情報は不十分で、ベトナム語を本当に普及させようという意志や努力が見えません。

試験内容はもちろんのこと、主催している東南アジア言語普及交流委員会はホームページもなく、何をしている団体なのか、代表者の藤野雅嘉という方も何者なのか全くわかりません(少なくともベトナム語関係者ではない)。

第1回目の試験の時はスタート段階なので多少粗削りであっても仕方ない部分はありましたが、既に1年経った第2回目でもその進歩は見えません。

結論としては、試験に関する十分な情報が開示され、他の機関から公認等を受けるまではスルーでいいと思います。今回受験するにしても力試し、趣味、ネタ程度と軽く考えて受けるのがいいでしょう。

2件のコメント

ベトナム語検定試験マンセーのブログが多い中、耳障りは痛くても大事なことから目をそらさずにびしっと指摘してくれる貴ブログに感銘を覚えました。
各級のレベル基準が他からのパクりというよりコピペですよね。著作権侵害で訴えられるレベルですよ。
もっともベトナム語検定試験実施団体は貴ブログをチェックしていることは以前のエントリから明らかなので、ある日「しれっと」記載変更する可能性もあります。

しかし、実はいち学校法人が特定非営利活動法人を急ごしらえ、過去問を非公開にしつつそこで対策講座とは。
過去問どころか個人ブログでの問題紹介すら禁止して自前の公式問題集を販売する某英語資格試験実施団体の悪いところを見習ったかのようです。

いくら発展途上の段階とはいえやっていいことと悪いことがありますよね。この記事は検定側へのメッセージでもあります。
今後もこのサイトの動向は注視していきたいと思います。

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