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vol.139 [看板から学ぶ] chú ýは「注意する」じゃない!?

たまたま小道を散歩してたらある看板を見つけました。こういった小さな看板にもいくつか語彙のポイントがあるのでみなさんに紹介します。

語彙

chú ýとは

まず一番上にでっかくchú ýと書いてあります。これはベトナム語を知らない人でも文字を読んでみればすぐにわかるかと思います。意味はそのまま「注意」です。漢越でも【注意】です。何かを警告しているわけですね。

chú ýの他にも看板や張り紙に掲げられている似たような言葉に「lưu ý【留意】」や「cảnh báo【警報】」などがあります。

chú ýには注意!

chú ý=注意と覚えてもいいのですが、ひとつ注意点があります。ベトナム語のchú ýは日本語の「気を付ける、用心する」という意味しかありません。つまり「ゴミのポイ捨てを注意する」みたいな「外から忠告する」という意味ではchú ýは使いません。誰かに対して注意勧告するはベトナム語では「góp ý」と言います。

「chú ý=注意」と短絡的に覚えているとこういった日本語とベトナム語の微妙な意味の違いに気が付きません。怠けずに常に辞書で語彙の意味を確認する癖をつけて下さい。

xe ra vào thường xuyênとは

次にchú ýの下に「xe ra vào thường xuyên」と書かれています。

xe

まずこの文の主語はxeです。xeは「車の総称」という意味でバイクや自動車両方を含みます。ちなみにxeは漢越のxa【車】が変化した俗漢字音という漢越の亜種です。

ra vào

次に動詞のraとvàoがあります。raは「出る」、vàoは「入る」なのでra vàoで「出入りする」という意味です。

このraやvàoは少し特殊な動詞で、今述べたように純粋な動詞として使うこともできれば、tôi đi ra sân(私は庭に出ます)みたいにメインの動詞の後ろにくっついて「方向」を決定するような用法もあります。

さらにそこから広がって、「V+ra」でVの動作が内側から外側に「開放、出現、放出」するような補助動詞的な役割を持つこともできます。

raやvàoなどは実はかなり奥深い動詞なのでまた別の回に解説したいと思います。とりあえずここではra=出る、vào=入る、と覚えておけば大丈夫です。

thường xuyên

最後にthường xuyênという副詞があります。thường xuyênは「常に、恒常的に」という意味で、漢越語で【常川】です。川は常に流れ続けるから「常に、恒常的に」という意味になったのでしょう。

全体の意味

以上のことから「chú ý xe ra vào thường xuyên」で「注意! 車の出入りが頻繁にあります」となります。
この看板は小道のT字路に貼ってあったので、小さい通路でも車の往来が激しいから気を付けてね!というメッセージなのでしょう。まぁホーチミンならどんな道でもいつバイクが飛び出してくるかわからないから常に気を付けなければいけないんだけどね(笑)

まとめ

・ベトナム語のchú ýには「誰かに対して忠告する」という意味はない。
・raやvàoなどの動詞は、それ自身が動詞として使うこともできれば、動詞の後ろにくっついて補助的に使うこともできる。

4件のコメント

いつもとてもわかりやすい説明、ありがとうございます。
毎日学習の参考にしております。
さて、取り上げてほしいというか、質問です。聞きたいことがたくさんありすぎて整理できていませんが、1つづつお伺いします。
ベトナム語は助動詞?(副詞?)のような機能をもつ言葉がたくさんあるように思います。そして、それが位置を動詞の直前、直後、文末でニュアンスを出すように見えます。これはベトナム語の大きな特徴であると感じるのです。その辺りについてのトマトさんの考察を伺いたいです。
と言っても大きすぎる話なので一口では説明できないと思われますが、その中でもチョコチョコと位置を変えて多彩な意味をつくる「được」についてのコアイメージが知りたいです。自身でも多分こんな感じなのかなというニュアンスは掴めているように思いますが、うまく言葉にできないです。(難しい)

良い質問ありがとうございます。
ベトナム語では確かにmuốn~やcần~やnên~など動詞の前にくっついてなどを表す単語がありますが、これらは厳密に言うと助動詞ではありません。そもそもベトナム語には助動詞という固定された品詞の単語は存在しません。これらはあくまで助動詞”的”な役割を持つ動詞としてくっついているだけです。
ベトナム語の動詞の特徴としてđi họcのように動詞が連続してきてもよい、というルールがあります。先にあげた助動詞的な動詞もこれの延長線上にすぎません。
muốn+Vのように動詞の前にきて意味を発揮するものもあれば、raのような方向動詞はV+raのように英語の前置詞的に動詞の後ろにきて意味を方向付けるものもあります。なので助動詞的な意味を持つ動詞、前置詞的な意味を持つ動詞などカテゴリーに分けて覚えるのが効果的でしょう。

西村さんが指摘した通りベトナム語にはnhéやnhỉなど語気詞(文末詞)とよばれるものを文末において話者の感情を伝える品詞があります。これは会話などにおいて非常に重要な役割を持ちます。これに関しては近々ブログで解説したいと思います。

đượcのコアはといったかんじです。đượcの漢越は【得】なのでそこから連想して考えてもいいかもしれません。これもあとで詳しい解説をブログでしたいと思います。

トマトさん、毎度詳しいご回答ありがとうございます。

私がベトナム語で特に気になり、語自体の本質と思われるのが「語順」と、トマトさんが回答した中にもある、「動詞+動詞」のような「前、後ろ」の位置です。

この位置の移動、「動詞の前、動詞の後ろ、文末」という語順の感覚がわかると、語の本質に迫れるのではないかと推察します。

そして、ベトナム語は中国の影響下に長年あった影響からか、孤立語としての性格を感じます。(孤立語に分類される?のかな。)

語自体に強いイメージ(メッセージというか主張というか)があり、重ねたり、順番を変えることでバラエティに富んだニュアンスを出しますね。

中国語と同様、西洋語や日本語以上に語感を鍛えるのに最適ですね。

西村さん

ご指摘の通り、ベトナム語は中国語と同じ孤立語に分類されます。
語そのものが変化しないため語と語を並べるためのルール、すなわち語順が非常に大切な役割を持ちます。ベトナム語文法を学ぶことは語順のルールを学ぶことといっても過言ではありません。

特にđượcのように動詞の前か後に来るかで意味が変わるものもあります。語自体に強いイメージがあるというよりは、その語が文の中(語順のルール)の枠組みに入って初めて意味が確定する(メッセージ性を持つ)といったかんじです。

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