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vol.266 石に記されたベトナム語を読解してみよう

前回の中部旅で、Vũng Rô湾の石に記されたベトナム語がとても勉強になると書きました。今回は実際にその石のベトナム語の読解、翻訳をしてみましょう。

石には以下のことが書かれています。

Đường Hồ Chí Minh trên biển, một con đường không dấu, tàu không số, trí, hiếu, trung, dũng, anh hùng, một chiến công và kỳ tích lịch sử ”.

(Trần Thanh Huyền nguyên Chính ủy Quân chủng Hải quân)

下の( )の部分は人の名前と職が書かれいるだけで、重要ではないのでここでは省きます。

構造分析

翻訳や読解の際に大切なのは大枠となる構造をつかむことです。

大枠の構造をつかむとは、要するに文の主語(S)や動詞(V)、修飾語は何なのかと考えることです。

これは一文が長くなればなるほど大事な作業になってきます。

主語はどれ?

Đường Hồ Chí Minh trên biển, một con đường không dấu, tàu không số, trí, hiếu, trung, dũng, anh hùng, một chiến công và kỳ tích lịch sử.

さて、この文の主語はどれでしょうか。

通常は文の最初に出てくる名詞がその文の主語であることが多いです。なのでĐường Hồ Chí Minh trên biểnが文のSになります。

Đườngは「道」Hồ Chí Minhは「ホーチミン(人のほう)」、trên biểnは「海の上」となるので「海の(上の)ホーチミンルート」と訳せます。

ホーチミンルートとはベトナム戦争時に北ベトナムからラオスやカンボジアを通って南ベトナムに物資を運んだ秘密のルートのことです。

通常のホーチミンルートは陸上の道をさしますが、trên biểnとあるのは海上にもホーチミンルートはあったんだよ、ということを表しています。

名詞の次にまた名詞…

さてĐường Hồ Chí Minh trên biểnの次にまたmột con đường〜という名詞が現れています。

名詞と名詞が連続している場合は何かつなぐ単語が省略されていると考えます。

名詞と名詞をつなぐ単語といったら“ là ”ですよね。làは文中でよく省略されます。

このlàは等号(=)の意味を表すので、
「Đường Hồ Chí Minh trên biển=một con đường〜」という図式になります。

đườngの前に「một=1」や「con=動くものにつく類別詞」があるのは道に限定性を持たせ、特別な道であることを表すためです。

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また、通常は生き物などにつく類別詞conが道という無生物名詞についているのは道が動きを連想できる名詞だからです

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vàは何と何をつなぐ?

そしてkhông dấu〜anh hùngまでがmột con đườngを修飾しています。

かつmột chiến côngとkỳ tích lịch sửがĐường Hồ Chí Minhと=でつながります。

つまり

Đường Hồ Chí Minhとは

1.một con đường←<không dấu〜anh hùng>な道
2.một chiến công
3.kỳ tích lịch sử

である。

となります。

1,2,3の名詞をvàが対等に並べているわけです。vàが何と何の単語を並べているのかも非常に大事です。

chiến công【戦功】は「戦争でたてた功績」、kỳ tích lịch sử【奇跡歴史】は「歴史の奇跡」という意味です。

以上の構造分析をわかりやすく図にするとこうなります。

〈 〉の中の意味は?

〈 〉の中の単語はすべて並列構造で並んでいます。

単語は難しいものばかりなのでまとめて以下に訳を書いておきます。

①không dấu=跡がない
②tàu không số=番号のない船
③trí【智】=知力、才知
④hiếu【孝】=孝行
⑤trung【忠】=忠誠、忠義
⑥dũng【勇】=いさましさ、勇気
⑦anh hùng【英雄】=英雄(的な)

全訳

以上の分析からこの文を訳すと、「海のホーチミンルートとは、跡や船番号を残さない、知力、孝行、忠誠、勇気、豪傑にあふれた船跡であり、戦いの功績でもあり、歴史の奇跡でもある。」となります。

「船跡、功績、奇跡」とルートを連想させるために全部「せき(跡)」がつくように訳してみました。上手いでしょ?笑

まとめ ~読解、翻訳の時のポイント~

・大枠の構造をつかむ=文の主語(S)や動詞(V)、修飾語は何なのかと考えること。

・名詞と名詞をつなぐ単語làはよく省略される。

・vàが何と何の単語を対等に並べているのか意識しよう。