ベトナム語の子音の[b-]の発音は、市販の参考書などに「日本語のバ行の発音と同じ」と書かれており、最も簡単にできる発音だと思われています。
しかし実はベトナム語の[b-]の発音は厳密には日本語のバ行とは異なります。
日本語の「バ」行は「破裂音」、ベトナム語の[b-]は「入破音」
日本語の「バ」の音をアルファベットで表すとbaです。ベトナム語もbaという表記なので一瞬同じ発音のように思えます。
しかし※国際音声記号(IPA)では日本語のバ行は[b-]で、ベトナム語のb-は[ɓ-]と表します。
国際音声記号(IPA)とは、国際音声学会が定めたあらゆる言語の音声を文字で表記するための音声記号です。
グローバルな基準に沿った音声記号だと思ってください。
まず日本語のほうの[b-]の記号は「両唇破裂音(りょうしんはれつおん)」といい、上下の唇でいったん空気をせき止めてから口を開放させ、破裂させるような音をいいます。日本語のバ行やパ行がこの音にあたります。
一方でベトナム語のほうは[ɓ-]というbの先が曲がったような記号になっていますね。
この[ɓ-]の記号の意味は「両唇入破音(りょうしんにゅうはおん)」といい、さきほどの破裂音とは少し異なります。
まず破裂音と入破音のbaを聞いて音の違いをイメージしてみて下さい。
破裂音のba(日本語のバ)
入破音のba(ベトナム語のba)
違いはわかりますか?
入破音のbaは少し喉の奥から聞こえている感じがしますね。
両唇入破音のやり方
入破音を出すにはまず喉仏(のどぼとけ)を下げる練習をする必要があります。
まず、自分の喉仏を触ってあくび(あくびをするマネ)をしてみてください。
その時にのどぼとけがぐーっと下がるはずです。
今度はそれを口を閉じた状態でやります。
口を閉じながら喉に少し力を入れてしゃっくりや笑いを我慢する時の「ングッ」のかんじで、喉を下げます。
その喉が下がった状態から両方の唇を一気に開放して「バー」を言うことによって生じる音が両唇入破音のbaです。
コツはヤギの鳴きまねをするかんじで「ンバァァー」と言うとできます(笑)。
参考動画
でもぶっちゃけ「バ」行でもok!だよ
ここまで説明しておいて言うのもなんですが、ベトナム語の[b-]は日本語の「バ」行でも全然大丈夫です。
ベトナム語[b-]の音を入破音でできないからといって、ベトナム人に通じなかったり、コミュニケーションに支障が出るといったことは一切ありません。
だから「baは日本語のバ」とだけ覚えておいて、意味の違いが生じる声調だったり、他の難しい子音を学ぶ方に時間を割きましょう。そのほうがずっと大事です。
ベトナム人は[p-](パ行)の音が苦手!?
ベトナム語では[p-]に代わって[b-]の音が「異音」として使われます。
つまりベトナム人は[p-](パ行)を発音しているつもりが[b-](バ行)の音になってしまう時があるということです。
日本語を勉強しているベトナム人は「プレゼント」を「ブレゼント」と言ったり、「バイバイ」を「パイパイ」と言ったりするなど、パ行とバ行を混同するのを時々見かけます。
それは、普段あまり使わない[p-]の発音をする時に、よく使う[b-]の発音が“代用されて”発音されてしまうからです。
ベトナム語では[p-]は主に外来語を表記する時に使われ、使用頻度は高くなく、[p-]の発音に慣れていないというのもあるでしょう。
要するにベトナム人は[p-](パ行)の音が苦手で、[p-]と[b-]の発音をあまり区別していないと言えます。
おまけ chim bồ câuがチン○コに聞こえる理由
昔トリビアの泉で「ベトナム語では鳩のことをチン○コ(chim bồ câu)という」といったことが紹介されていました。
これはベトナム人がそもそも[p-]と[b-]の発音を厳密に区別しておらず、bồの部分をpồ(=ポ)と発音してしまい、chim bồ câuがチン○コのように聞こえてしまうといった現象が起きていると考えられます。
まとめ
・ベトナム語の[b-]は実は「バ」行ではない。
・日本語の「バ」行は「破裂音」、ベトナム語の[b-]は「入破音」
・両唇入破音は口を閉じながら喉に少し力を入れ、しゃっくりや笑いを我慢する時の「ングッ」のかんじで、喉を下げながら開放させて言う音。
・しかしベトナム語の[b-]は日本語の「バ」行でも全然通じるので入破音を意識する必要はない。
・ベトナム人は[p-](パ行)の音が苦手で、[p-]と[b-]の発音を厳密に区別していない。
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