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vol.293 中部方言の謎 ~声調編~

中部方言は非常になまりが強く、独特の発音を保持していると言われています。

ではそのなまりが強いとは具体的にどういうことなのでしょうか。

今回は中部方言の“声調”に焦点をあて、独特ななまりの正体を突き止めてみましょう。

ここでいう中部方言とは言語的区分での中部地域で話されている言葉です。具体的にはゲアン省〜フエまでの地域で話されている言葉を指します。

中部方言は重くなる!?

中部方言の最大の特徴は声調が重く変化するということです。

具体的には⁄(鋭い声調)、〜(倒れる声調)、っ(問う声調)が・(重い声調)に変化します。

例えば

áo dàiがạo dàiに

xin lỗiがxin lội

cảm ơnがcạm ơnに聞こえます。

このように中部方言は音が最初に上昇する3つの声調が重い声調に変化して発音されます。

ほんとかよ?と思う人もいるでしょう。では実際に中部方言の発音を聞いてみましょう。

どうですか?指摘した声調が標準的なものに比べて重く変化して聞こえますよね。

この声調が重くなるという変化がいわゆる中部方言のなまりの正体です。

本来ベトナム語は6つ声調があり、声調が異なれば当然言葉の意味も変わります。

しかし中部方言では3つの声調が1つの声調に集約され、実質的に声調の数が減るため、声調による意味の判断が困難になります。

これが中部ベトナム人との会話が難しいといわれる最大の要因です。

 

ちなみに中部方言の発音をしてくれた人はダナンでトマトが住んでいた時のアパートの受付の子です。その子はハティン省出身で、なまりが強かったので協力してもらいました。

「中部なまり+中部語彙」でさらに難しく

vol.290でやったように中部地域(この場合は地理的区分での中部)では北部や南部では見られない独特な単語を使います。

その独特の中部語彙に中部なまりの声調が重なると、聞き取りはより困難になります。

(例)

  • đi mô rứa?(=đi đâu vậy?)
    どこ行くの?

※rứaの⁄(鋭い声調)が重い声調に変化し、rựaのように聞こえる。

  • cái ni là cái chi rứa?(=cái này là cái gì vậy?)
    これは何ですか?

異なる語彙に異なる声調、中部方言は外国語である、とベトナム人が冗談めいて言う理由がわかるかと思います。

中部方言の声調の表記は本来の声調のまま書いてください。例えばrứaはrựaと発音しても表記はrứaのままです。

“⁄”, “〜”, “っ”, “・”は同じ仲間!?

⁄(鋭い声調)、〜(倒れる声調)、っ(問う声調)、・(重い声調)の4つの声調は音声学的には仄声(そくせい)と呼ばれるカテゴリーに入ります。

仄声とはざっくり言うと音の上げ下げが激しい音という意味です。

中部方言では仄声に属する4つの声調が何らかの理由で重い声調の1つに集役されます。

参考『ヴェトナム語の世界―ヴェトナム語基本文典

一見それぞれ関係のないように見える4つの声調ですが、音声学的な分類でいうと同じ仲間に属し、もともと他の音の干渉に合いやすいと考えることができるでしょう。

まとめ

・中部方言は⁄(鋭い声調)、〜(倒れる声調)、っ(問う声調)が・(重い声調)に変化する。