受身形はわかりにくい?
「受身形」とは「~される」という意味で、動作の受け手を主語にした形のことです。ベトナム語の参考書にも受身形は必ずのっている文法項目です。
ベトナム語の受身形はたいてい以下のような形で説明されます。
受身文は受身を示す語 “được” または “bị” の後に平叙文を繋げることで表します。
[主語 1] + được + [主語 2] +[動詞] :[主語 1] が [主語 2] に ~ された [主語 1] + bị + [主語 2] + [動詞] :[主語 1] が [主語 2] に ~ されたという形になりますが、この時、動作を受けた側([主語 1])がそれによって利益を得た場合 “được” 、被害を蒙ったなら “bị” と使い分けることが必要です。
上の説明は書き方も固いし、正直わかりにくいです。
このパターンで覚えていると日本語からベトナム語にする時に「~される、~られる」という日本語訳に引っ張られて、「あれ?どんな語順だったかな?」と迷ってしまうこともあるでしょう。
また、この説明だけではなぜđược / bịの後に主語、動詞がくるのかわかりません。結局ほとんどの人はあまり考えずに上のパターンを丸暗記してしまっているでしょう。丸暗記してしまうと文が長くなったときや、別のパターンの時などに応用がきかなくなってしまいます。
受身形とはđược / bịという動詞の使い方の問題である
受身というのは日本語で訳した時に「~される、~られる」という訳になるだけで、ベトナム語ではわざわざ「受身形」というカテゴリーで考えません。
そもそも「受身形」と考えること自体が日本語的な視点であり、その視点がベトナム語を作る時の間違いのもととなりえるのです。ベトナム語側の視点で考えるとこれはただ単にđược / bịというの動詞の使い方の問題です。
つまりđược / bịという動詞のパターンと使い方さえ知っていれば、わざわざ受身形という限られた形で覚えなくてもいいし、được / bịを使ったより幅広い表現を自然と使えるようになります。
今回はそのđược / bịという動詞の本質と3つのパターンを紹介します。
đượcは「いいことを受け取る」、bịは「悪いことを受け取る」
được/bịの一番のポイントはđượcを「いいことを受け取る」、bịを「悪いことを受け取る」という普通の動詞としてシンプルに考えることです。これ以上でもこれ以下でもありません。
đượcはもともと漢越語で、漢字では【得(トク)】」です。また、bịは【被(ビ)】から来ています。そうすると、得る→「いいことを受け取る」、被(こうむ)る→「悪いことを受け取る」という意味になるのがわかるかと思います。
được/bịを「~される、~られる」という日本語の受身形の訳で考えるからベトナム語にする時にわかりにくくなり、được/bịの本質が見えなくなって別の形で応用できなくなるのです。
được / bịの3パターン
動詞のđược / bịには次の3つのパターンがあります。
①S + được/bị + Oのパターン
được / bịを通常の動詞として使うパターンです。được / bịの後ろに目的語として名詞がきます。
例文の日本語訳は目的語に合わせて様々な訳になってますが、đượcは「いいことを受け取る」、bịは「悪いことを受け取る」という本質的な意味を知っていれば例文の訳は自然と出てくるはずです。
②S + được/bị + V~のパターン
được / bịの後にV(動詞、形容詞)が続くパターンです。ベトナム語は「đi làm=仕事をしに行く」、「 tập nói=言う練習をする」のように動詞の後にさらに続けて動詞がくることを認めています。được/bịでも同様に後ろにVがこれます。
được / bị以下のV~の部分を「~こと」という名詞のかたまりで考えるとわかりやすくなります。ここでもđượcは「いいことを受け取る」、bịは「悪いことを受け取る」という動詞であることは変わりません。
・chị ấy bị mất điện thoại.
彼女は携帯をなくした。
・phim này được đánh giá hay nhất.
この映画は最も面白い評価を受けた。
・anh ấy đang bị lạc đường.
彼は道に迷っている。
③S + được/bị + S’+ V‘~のパターン
được / bịの後に主語、動詞と続くパターンです。
ここでもポイントとなるのがđược / bị以下のS’+ V‘~を[S’V‘~こと]という名詞のカタマリでみるということです。その名詞のかたまりを全体で目的語とすると最初のS + được/bị + Oのパターンと全く同じであることがわかります。
そしてこの時の日本語訳を自然な形に直すと「~られる」という受身形の訳になっています。だからこのパターンを参考書などでは受身形として紹介しているわけです。
ただ①、②のパターンを先に見ていれば、③のパターンは①のS + được/bị + Oのパターンの目的語が大きくなった応用形にすぎないことがわかります。đượcは「いいことを受け取る」、bịは「悪いことを受け取る」という動詞の部分は何ら変わっていません。
この③のパターンのみをわざわざ受身形という狭いカテゴリーで説明することにあまり意味がないということに気づきましたか?
・chị ấy được nhiều người tặng quà sinh nhật.
彼女はたくさんの人から誕生日プレゼントをもらった。
・em ấy đã bị công ty đuổi việc.
彼女は会社からクビにされた。
・anh ấy bị cảnh sát phạt tiền.
彼は警察から罰金を科せられた。
まとめ
- ベトナム語の受身形はđược / bịという動詞の使い方の問題である。
- được【得】=「いいことを受け取る」、bị【被】=「悪いことを受け取る」という動詞としてシンプルに考える。
- 動詞のđược / bịには①S + được/bị + O②S + được/bị + V~③S + được/bị + S’+ V‘~の3つのパターンがある。
- được / bịより後ろの部分を「~こと」という名詞のかたまりで考えると文の構造がわかりやすくなる。
・tôi được 20 tuổi.
私は二十歳です。
※tôi là 20 tuổiとは言いません。年齢を言うときにはđượcをつけるかそれを省略した形で言います。
参考動画↓
・tôi bị tai nạn giao thông.
私は交通事故に遭った。
・em ấy bị thất bại nhiều lần.
彼女は失敗をたくさんした。