ベトナムの地名から漢越語をピックアップして、その特徴や由来を学びましょう。
ベトナムの全63省市のうち、Giang(ザン)という単語は多くの省で使われています。
具体的には北部の
・Bắc Giang(バクザン)省
・Hà Giang(ハザン)省
及び、南部の
・Tiền Giang(ティエンザン)省
・Hậu Giang(ハウザン)省
・An Giang(アンザン)省
・Kiên Giang(キエンザン)省
の計6つの省がGiangを使っています。
ではこのGiangとは一体何なのでしょうか?
Giangとは?
Giangは漢越語で【江】と書きます。【江】とは「大きな川」という意味です。中国に長江という大河がありますが、その【江】と同じ意味だと思ってください。
ベトナムには大きなデルタ地帯が2つあります。デルタ地帯とは河川によって運ばれた土砂や石などが海と川の境目に堆積することにより形成された地形のことです。上から見ると三角形(デルタ)になっているので三角州とも呼ばれます。
ベトナムにある大きなデルタ地帯は北部の紅河(こうが/ほんがわ)デルタ地帯と、南部のメコンデルタ地帯です。それぞれ紅河とメコン川によって形成されました。
先ほどのGiangが使われている北部のBắc Giang(バクザン)省にはSông Thương(トゥオン川)※1が、Hà Giang(ハザン)省にはSông Lô(ロー川)※2が街の中心部を流れています。南部メコンデルタ地帯の4省はそのすべてがメコン川に接する地域です。
つまりGiangがつく省は大河(の支流)が流れる地域、またはそれに接する地域だということです。ベトナムは川と共に生き、歩んできたというのがGiangという単語からわかります。
Giangは名前にも多い
Giangはベトナム人の名前にも多く使われます。Giangは男女ともに使える人気の名前の一つです。川のように広い心で、長く透き通った品性を持つようにという思いを込めて名付けられるそうです。ただ実際のベトナムの川は全く透き通ってはいないですが笑。
ちなみに子音の[gi-]の発音が南北で異なるため、Giangは北部では「ザン」、南部では「ヤン」と発音します。名前をカタカナ表記する際はどちらでもかまいません。
Giangを使ったことわざ
ベトナムには“Giang sơn dễ đổi, bản tính khó dời”ということわざがあります。
このことわざは「国土は変わりやすいが、人の性格は変わりにくい」という意味です。
・giang sơn【江山】=国土、祖国
※【江山】は山と川という意味で、ベトナムの自然豊かな国土を表す文語的表現です。
・dễ đổi=変わりやすい
・bản tính【本性】=持って生まれた性格
・khó dời=移り変わりにくい
ベトナムは古くから中国と何度も領土を争い、近現代はフランスやアメリカとも戦争し、国が侵略され、国土が分断、統合する事態に何度も遭ってきました。つまりベトナムにとって国土は変わりやすいものなのです。
一方で、人々がもともと持っている意識、習慣、性格は時が経ってもなかなか変わるものではありません。国が物質的に発展しても、ベトナム人の性格や本質は変わらないことを示す深いことわざです。
※1 Sông Thương(トゥオン川)=紅河デルタ地帯を形成する二大河川の一つであるSông Thái Bìnhの支流
※2 Sông Lô(ロー川)=紅河最大の支流