ベトナム語の人称代名詞を考える上で大事な「親疎(しんそ)」という概念を紹介します。
「親疎」とは?
親疎とは「親密な関係であること、もしくは疎い(親密でない)関係であること」という意味です。
つまり1つの人称代名詞が親しい関係でも親しくない関係でも使えるということです。
例えば日本語の「お前」という言葉がそうです。
あなたが親しい友達から「お前」と呼ばれても何も問題はありません。むしろそう呼び合うことは親しい仲間の証です。
しかし知らない人からいきなり「お前」と言われたら腹が立ちますよね。
「お前」は友達同士では親しい間柄の呼称であると同時に、親しくない関係の場合ではそれが軽蔑、侮辱の言葉にもなるということです。
ベトナム語にはこのような「親疎」という対立する意味を同時に持つ人称代名詞や呼び方がたくさんあります。
「親疎」を表す単語の代表例
tao(俺) – mày(お前)
ベトナム語の代表的な「親疎」の単語といえば「tao(俺) – mày(お前)」です。
tao – màyは同世代の親しい友達や気のおけない仲間同士で使う一人称と二人称です。通常の人称代名詞よりも強い関係を表します。男女共に使用可能です。
しかし、tao – màyを仲の良くない人や知らない人に対して使うと、一転してそれが悪口の人称に変わります。
・mày bị khùng à?
お前バカか?
→①親しい間柄では冗談や、からかいのニュアンスを持つ
→②親しくない間柄では侮辱のスラングになる
nó=やつ、あいつ
「nó(やつ、あいつ)」も「親疎」を表す三人称です。
話者とnóと指された側は強い親密関係を示すこともあれば、その人を突き放したような粗野な言い方にもなります。
・hôm qua nó lười học nên mình phải bắt nó học bài.
昨日あいつは勉強を怠けていたから無理やり勉強させたよ。
→話者とnóは親密な関係
ăn cướp kìa, bắt nó đi!!
泥棒だ!やつを捕まえろ!
→話者とnóは疎い関係
「親疎」を持ついろいろな単語
他にもたくさんの「親疎」を持つ呼び方があります。
例をいくつか紹介します。
動物系
・con chó 犬野郎 ※con=生物を表す類別詞
・con heo(lợn) 豚野郎
・con quỷ 鬼、悪魔
形容詞系
・con mập おデブちゃん
・con lùn おチビちゃん
・thằng mất dạy おバカちゃん ※thằng=目下、格下の者に使う類別詞 mất dạy=無教養な
・thằng hậu đậu 役立たずな奴 ※hậu đậu=役立たずな
・bánh bèo vô dụng 能無し娘 ※bánh bèo=「女性」という意味の俗称 vô dụng=無能な
※thằng mất dạyやthằng hậu đậuは親が子に対して使うことが多いです。
日本語訳だけを見るときつい言葉のように見えますが、すべて親しい間柄において使用することができます。
親しくない関係で使うともちろんただの悪口になります。
例文
・ê Nam chó, đi đâu đó?
おい、犬野郎のナムよ、どこ行くの?
・ê con lùn kia, giờ mày đang ở đâu
おい、オチビちゃん、今どこにいるの?
・thằng hậu đậu này, lại giúp mẹ với.
役立たずちゃん、お母さんを手伝っておくれ。
補足1 ベトナム人は犬を本当に愛しているのか?
例にもあげたように、ベトナム人は「chó」という言葉を親友への愛称(からかいの意味を含む)としても、侮辱の言葉としても使えます。
動画の答えの一つとしては、chóという名詞には「親疎」という概念を持っているから、ということになります。
補足2 ベトナム版「ドラえもん」における主要キャラクターのあだ名
ドラえもん mập ú おデブ
のび太 hậu đậu 役立たず
ジャイアン hung dữ 凶暴
しずかちゃん xinh đẹp 美しい
スネ夫 mỏ nhọn とんがり口
出来杉くん thông minh 聡明
ベトナム版のドラえもんにおけるキャラクターのあだ名もしずかちゃんと出来杉くん以外は表面上は良い意味ではありません。
しかし、彼らの仲が親密であることを考えれば、悪い言葉も愛称として受け入れることができるのです。
まとめ
- 人称代名詞の一部には親しい関係でも親しくない関係でも使える「親疎」という概念がある。
- 「親疎」をもつ人称代名詞は親しい間柄では愛称になるが、親しくない場合ではそれが軽蔑、侮辱の言葉にもなる。
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