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vol. 374 トマトの辛口参考書レビュー

外国語を身につけるためには、いい教科書、いい教師、いい辞書が必要です。

教科書(参考書)はあなたのベトナム語の能力を左右します。つまりいい教科書を選べばそれだけ能力がきちんとアップするということです。

というわけで、今回は巷でよく使われているベトナム語の参考書をトマトが辛口でレビューします。

『ベトナム語レッスン初級』 五味政信

多くのベトナム語初学者がこの本を持っており、ベトナム語教室でもよく使われている参考書です。

ただトマトが読んだ感想は「巷で評価されてるほど良い本ではないな」と思いました。

発音解説は全然ダメ

まずベトナム語において一番重要である発音の項目はたったの4ページしかありません。発音の解説もざっくりしすぎで、これを読んでもベトナム人に通じる実践的な発音は絶対に身に付きません。

しかも説明は北部弁発音のみで、南部弁発音との比較や解説が皆無です。非常に偏っています。

d-, gi-, r-の発音をすべてザ行と表記しているのは典型的な北部弁の証拠です。南部弁ではd-, gi-はヤ行、r-はそり舌のラ行になります。

しかしベトナム語の読みをカタカナでルビを振っていないのは評価できます。

インプット量の割にアウトプット量がかなり少ない

文法の説明はややクドく、冗長に感じる書き方ですが、丁寧に解説されてて良いと思います。

ただいきなり第一課から人称代名詞(二人称、三人称含む)、làの否定文と疑問文、cũngやcủaの用法からはじまり、第二課では指示詞、類別詞、付加疑問文、数字など一つの課に重要事項が盛りだくさんに入っています。

確かにどれも大切な文法項目ですが、一つの課にあまりにも内容を詰め込みすぎです。

その割に練習問題が各課にたったの1ページ、復習クイズでも2ページのみで、インプット量の割にアウトプット量がかなり少ない構成となっています。

以前にベトナム語を勉強したことのある人に対して、先生などが他に練習問題を出すなど、補助教材的に使うのならいいかもしれません。

しかし、全くの初学者が自学自習で本書を勉強すると消化不良を起こす可能性大です。

文法積み上げ式の参考書と謳っていますが、まだ力がついてない人にいきなり重たいものを持たせてもきちんと積み上がらないでしょう。

五味先生は南部が嫌いなのか?

発音の部分でも言いましたが、この本で注意して頂きたいのは「文法も語彙も北部弁にめちゃくちゃ偏っている」という点です。

例えば”vângは「はい」という意味の応答文”、と当たり前のように書かれていますが、南部や中部ではvângという単語はまず使いません(中南部ではdạを使う)。

また、p88にある日付の前に付けるmồngも南部ではmùngと言います。

そもそもmồngやmùngはテトの時の旧暦の日付につける言い方で、日常会話ではほとんど使いません。そういった言及もこの本ではなされていません。

p106, 107にあるnhỉやđấyも非常に北部的な言い方です。南部ではそれぞれha, đóと言います。

他にも語彙の多くが北部単語ばかり載せられています。どうして同じ意味の南部単語を併記しないのでしょうか?

さらにコラムもなぜかハノイの名所ばかりの紹介で、南部のことは一切書かれていません。ここまでくると「五味先生は南部をベトナムと思っていないのではないか?」と勘ぐってしまいます。

南部がよほど嫌いで載せていないのか、はたまた単純に知らないだけなのか謎ですが、めちゃくちゃ北部弁に偏っているのは確かです。

この本でベトナム語を勉強して、ホーチミンに行ったら「全然本の内容と違うじゃねーか!」と思うこと間違いなしです。

この本を使ってベトナム語を勉強している人はこの点を特に気をつけて下さい。

総評

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わかりやすさ [star rating=”4″]
使いやすさ [star rating=”3″]
実践度(本の内容が実践で役に立つかどうか) [star rating=”3″]

『ゼロから始めるベトナム語』 宇根祥夫

こちらもよく本屋に置かれており、一応ベストセラー?になっているベトナム語文法の参考書です。

こちらもトマトの総評としては高くありません。具体的に何がダメなのか見てみましょう。

発音解説がやっぱりいまいち

こちらも発音解説は5ページしかなく、非常に中途半端です。読んだところであいまいな発音知識のみが残るでしょう。

しかもベトナム語にカナルビを振っちゃっています。せっかく日本語とどう発音が異なるのかを解説しているのに、カナルビを振ってしまっては意味がありません。

他にも音節、二重母音、介母音といった言語を学んでいない人にとっては馴染みのない単語を平然と使っています。大学教授に特有の癖なのか、難しい単語を並べて悦に浸る感じがいただけません。

ちなみにこのブログではそれらの用語をきちんと解説しています。ご参照下さい。

ベトナム語のカナルビはダメ!ゼッタイ!

文法解説部分のベトナム語にも第10課までご丁寧にカナルビが振られています。

こういったカナルビは絶対に参考にしてはいけません。

著者が親切心で初心者のために読みやすくしているつもりなのでしょうが実はかえって逆効果です。カナルビで読めば読むほど発音は下手になっていきます。

このブログでも何度か言及してますが、カタカナを介入させた時点でベトナム語の発音はきちんと身に付かなくなります。

カタカナではベトナム語の繊細な発音を表すことはできず、発音する際にどうしてもカタカナの音の感覚に引っ張られてしまうからです。これは百害あって一利なしです。

本にベトナム語のカナルビがあっても絶対に無視して下さい。

途中から急に難易度アップ!?

文法の内容の説明は単調で、使う言葉も小難しく、なんだか眠くなる書き方ですが、最初のほうは基礎からシンプルにまとめられています。

漢越語を積極的に載っけているのも評価できます。

漢越はカッコ内に書くのが普通ですが、この本ではなぜか逆になっててわかりづらいです…。

 

しかしなぜか第8課あたりから難易度が急にはね上がります。例文も長くなり、それに伴って覚える情報量も一気に増えます。

第9課に現れる長文、初級者にこれはキツイっしょ…

以前に勉強したことある人ならまだしも、本のタイトル通りにゼロから始めた人は途中で面食らうでしょう。

本の構成の仕方が勉強する人のことを考えて作っていないので、ほとんどの初心者は本の真ん中あたりで心が折れてしまうこと間違いなしです。

さらに多くの単語や表現が載せられているのに、巻末などに単語一覧や索引などがありません。勉強した単語を再確認したくてもこれではどこで勉強したのかわからなくなります。

総じてこの本は「微妙」と言う他ありません。

総評

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わかりやすさ [star rating=”2″]
使いやすさ [star rating=”3″]
実践度(本の内容が実践で役に立つかどうか) [star rating=”3″]

『くわしく知りたいベトナム語文法』 田原洋樹

この本は今回紹介する中では一番おすすめです。

全体的に田原先生の説明はわかりやすく、学習者のレベルに合わせ、考えて書かれている点が評価できます。

どれにしようか迷っている人はとりあえずこの本を買いましょう。

発音の解説は一番わかりやすい

発音の解説は音の骨組みからはじまり、母音、子音、声調、発音確認と11ページあり、比較的多く割かれています。

発音が難しい二重母音や末子音の解説も例を用いてわかりやすく説明されており、記憶に残りやすいです。

ただ、発音は北部弁のみで、これを読めばすべて完璧になるわけではありませんが、先ほどの2冊よりはだいぶましな構成となっています。

文法書というより「文法に関する読み物」

文法説明も実況中継風に、読者に語りかける形で書かれているので読みやすいです。ただ、第2章の品詞のところだけは難しく、わかりづらいのでp48の3章から読み進めていくのをオススメします。

あとは順に読んでいき、ポイントをまとめたり、それに該当するベトナム語を書き写したりしていけば知識が整理できます。

コラムも本編に入れたほうがいいレベルの重要なことが書かれています。しっかり読んでおきましょう。また、この本も最初のほうにはカナルビが振ってありますが無視してかまいません。

しかし、この本は文法を体系的にまとめられていません。
特に第3部では章タイトルが「ベトナム語の気持ち」、「ヌオックマムの香るベトナム語」、「ベトナム語の響き」などかなりあいまいなまとめ方です。著者の気分でただつらつらとベトナム語を語るといった構成になっています。

つまり、この本は文法書というよりも、「文法に関する読み物」といった感覚が強いです。だから「必要とする文法項目を検索して勉強する」といった作業には向いていません。

また、この本も巻末に索引がないので、単語を検索したい時や復習する時にとても困ります。

せっかく内容はわかりやすくて良いのですが、うまく体系化されていない点がマイナスポイントです。

総評

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わかりやすさ [star rating=”4″]
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実践度(本の内容が実践で役に立つかどうか) [star rating=”4″]

ちなみにこの本は文法のインプット用参考書です。アウトプットをしたいという人には同じ著者の『ベトナム語表現とことんトレーニング』という問題集もあります。こちらもおすすめです。

『くわしく知りたいベトナム語文法』と合わせて使えばベトナム語力がきちんとアップすることでしょう。

まとめ 参考書を読んでもベトナム語は話せない

日本で売られている参考書すべてに共通することですが、参考書に書かれていることを完全に理解したからといって、実践ですぐにベトナム語がペラペラしゃべれるようになるわけではありません。

なぜかというと、発音の解説がどの本も非常に中途半端で、参考書だけではどうにもならないからです。

しかし、単語や文法知識は市販の参考書でもある程度は身につきます。あくまでも文法を学ぶための本として参考書を利用しましょう。

以下に参考書の注意点とアドバイスをまとめておきます。

  • ベトナム語の実践的な発音は参考書から学べない。
  • ほとんどの参考書が北部発音、北部単語に偏っている。
  • 本に書かれているベトナム語のカナルビは絶対に参考にしてはならない。
  • 文法を学ぶのにどの本にしようか迷っている人はとりあえず『くわしく知りたいベトナム語文法』を買え。

11件のコメント

辛口、大いに結構です。逆におすすめの参考書を紹介してもらえませんか。それがないのなら、書いて出版してもらえますか。既存書と同じぐらいなら買います。

「ベトナム語レッスン初級」については、書いた人が日本語教師でもあることから、
日本語教育界で一般的に使われているテキスト「みんなの日本語」を安易にまるまる
ベトナム語版に書き換えただけじゃないかと思います。
「文法積み上げ」という教え方も日本で行われている日本語教育そのままですし。
以前トマトさんがベトナム語検定について書かれた記事でおっしゃっていたことと
全く同じことですが、違う性質の言語を教えるのに、カリキュラムが同じでいいわけが
ないですね。これがそもそも無理のある内容編成になっている原因です。
発音についてはほんとにトマトさん以上の解説を見たことがないです。

コメントありがとうございます。おっしゃる通りで、日本語のカリキュラムをベトナム語に持ち込んでも無理が生じてしまいますよね。ベトナム語の特性に則した文法体系を開発する必要がありますね。

一応ベストセラー?の『ゼロから始めるベトナム語』を文字通りゼロから初めて、3年かけてやっと読破しました。
第8課どころか第5課あたりですでに難しく感じましたよ。
おっしゃる通り、漢字由来単語の充実ぶりはありがたかったですが、巻末などに単語一覧がないのは不便ですね。

また、どの本も北部発音ばかりで、南部発音の本の日本で買うのは難しいと思います。
南部の場合音素の違いだけだなく、母音の欠損による高速化(北部の1.5倍ぐらいのスピードでしゃべる)がつらいです。
ハノイでベトナム人と普通に話せる人がホーチミン異動になって誰とも会話できなくて愕然としたりします。

そうですね。北部弁は単語一つ一つの声調をはっきりと、ぶつ切りのように発音しますが、南部弁の声調はゆるく流れるように発音するので聞き取りづらいですね。でも慣れれば意外といけますよ。

僕はベトナム人だけど、そんな教科書本当に難し、日常会話も使わないし、時々変な感じもあるから…

トマトさん。こんにちは。アドバイスをいただきたいのでコメントをさせていただきました。私はベトナム人で、現在バイトとしてベトナム語を教えています。(まだ三日しか教えていませんけど)教えることは初めてです。今まで、色んなところから参考にして自分なりにテキストを用意しました。それで、ようやく発音が終わりました。次は会話です。しかし、色んな記事を読んで余計に頭がごちゃごちゃになりました。私は何に基づいて教えればいいですか。向こうは会話だけできればいいということです。ご返事をお待ちしております。

コメントありがとうございます。あなたがベトナム人であれば教科書にない実践的な会話や若者言葉を教えると楽しく勉強できるかと思います。あなたのベトナム人としての経験を軸に本当に役に立つ会話やセリフを教えるといいと思いますよ。

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