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vol.406 敬語を表現するための3つのポイント

ベトナム人日本語学習者が特に難しいと感じるのが日本語の「敬語」だと言われています。というか日本人も「敬語」を完璧に使いこなせている人は少ないでしょう。

ではベトナム語における敬語はどうなんでしょうか?もちろんベトナム語にも丁寧な言い方というものは存在します。しかし日本語と比べるとその使い方ははるかに簡単です。

今回はベトナム語で敬語を表現するための3つのポイントを紹介します。

敬語を表現するための3つのポイント

①文末にạをつける

ベトナム語で1番簡単な敬語表現は語気詞をつけることです。

語気詞とは文末に置いて、その文に話者の「感情」「気分」「態度」などを伝達する役割を持つ品詞のことをいいます。文末詞とも呼ばれます。

語気詞ạは〈尊敬・丁寧〉を表します。否定文、疑問文、命令文など様々な文の文末につけられます。

ベトナム語で一番簡単に手っ取り早くできる敬語表現は「文末にạをつける」ことです。シンプルで覚えやすいですね。

・cám ơn .
ありがとうございます。

・chào anh ạ.
おはようございます。

・dạ, hiểu rồi .
はい、承知しました。

・Khi nào chị đến Việt Nam ?
いつベトナムに行かれますか?

・Tôi không nói được tiếng anh .
私は英語を話すことができません。

・Chị đi học đi .
学校に行ったほうがいいですよ。

ちなみにこの「ạ」はしっかりと重い声調で発音しなければなりません。もし重い声調になりきらずに「à」と発音してしまうと〈疑問・確認〉の語気詞になり「〜か?」という意味になってしまいます。

声調が少し変わるだけで意味が大きく変化してしまうので注意してください。

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②主語を加える

意外と知られていませんが実はベトナム語は主語を入れるだけで丁寧な表現になります。

例えばcám ơnは「ありがとう」と訳しますが、これをそのまま年上に対して使うと実はややぶしつけで失礼な表現になります。cám ơnは日本語の「どうも」くらいの感覚で、仲の良い人同士で主に使います。

このcám ơnを少し丁寧にした表現がcám ơn anhなどの「cám ơn+二人称」の形です。これが一番ベーシックな「ありがとう」の表現です。

そしてこのcám ơn anhをより丁寧にする方法が「主語を加える」ことです。

二人称のanhに対応する一人称はemなのでそれを文頭に置いてem cám ơn anhと言えばより丁寧な形になります。

さらにその文にポイント①の「ạ」を加えれば最上級の丁寧表現ができます。

まとめると

cám ơn < cám ơn anh < em cám ơn anh < em cám ơn anh ạ

の順番で丁寧になります。

同じ意味の場合、文字数が増えれば増えるほど敬意を持った表現になるというのがポイントです。

Em chào chị.
こんにちは。

Cháu cũng khống biết ạ.
私も存じ上げません。

Tôi rất vui được gặp ông.
私はあなたに会えてとてもうれしいです。

「主語を加える」という仕組み自体も非常にシンプルです。

ただし二人称と一人称の単語の対応がきちんと頭に入っていないとこの方法は使いこなせません。まだ二人称を覚えてない人や知識があいまいな人は以下の記事を参考にして下さい。

ちなみに礼儀礼節を重んじる北部では年上に対して主語を抜いた形で言うと注意されることがあります。南部の使い方に慣れていたトマトは北部にいた時よく注意を受けました。

北部の人にとって南部の主語を省略された言い方はやや軽々しく映るのでしょう。

③あえて年上や他人行儀な人称代名詞を使う

ポイント③も人称代名詞の使い方がポイントです。通常の年齢にあてはまる二人称よりもあえてさらに年上の二人称を選ぶことによって敬語表現をすることができます。

例えば相手が少し年上のanhくらいの年齢の人なのに、あえてchúやôngを使うとより丁寧な言い方になります。

これは年齢差の離れた二人称を使うことによって通常の関係よりも相手を上の立場として見ており、敬意を持たせた言い方につながります。

また、tôiやbạnやmìnhなど中立的で少し他人行儀な人称代名詞を使うことによって相手と距離を置き、尊重の意を表すことにつながります。

人称代名詞の選択は究極的なことを言えば「その人の主観で決めていい」ものです。人称代名詞は年齢に応じて杓子定規にガチガチに決まっているものではありません。だからこそ相手を持ち上げたい時には二人称の年齢も持ち上げていいのです。

ただしこの使い方は主に公的な文書やスピーチ等で使われることが多く、通常の日常会話でいきなり年齢差のある人称代名詞を使うと相手に違和感をもたれる場合があります。シチュエーションを選んで使いましょう。

以前住んでいた家の賃貸契約書。名前の左部分にông / bà とかなり年上の二人称を使うことによって敬称を表しています。ちなみに私の名前はとのひろではなくともひろです。

・Cháu xin lỗi bà ạ.
申し訳ございません。

・Con chào ông.
お世話になります。

・Tôi xin tự giới thiệu với các bạn.
わたくしがみなさんに自己紹介いたします。

トマトこぼれ話 同年代からのchú

トマトがハノイでそこそこ良いホテル(1泊5000円くらい)に泊まった時のこと、夜にシャワーを浴びようと思ったらお湯が全く出ないトラブルに遭いました。

ベトナムでは給湯器の関係でぬるいお湯しか出ない時はよくあるんですが、その時は冷たい水しか出ず、さすがにハノイの冬で水シャワーは無理なのですぐに受付を呼んで給湯器をチェックしてもらいました。

結果的に給湯器の故障だということがわかり、別の部屋に移るよう指示されました。

夜でこれから早くシャワー浴びて寝たいのに面倒くさいなぁと荷物を移動させてたところ、受付とは別のスーツを着た20代後半くらいのホテルの男性オーナーが事情説明と謝罪に来ました。そこそこ良いホテルだと対応が違います。

その時のオーナーはトマトに対して二人称の「chú」を使い、自分のことを「cháu」と呼んでいました。

通常の見た目から判断するとトマトとそのオーナーは同年代くらいなので「おじさん-子ども」にあたる「chú-cháu」の人称代名詞を使うのは変です。

しかしその時のオーナーはトマトに謝罪し、敬意を持って接するためにあえて自分のことを低くみるcháuを使い、相手を上に立たせるchúを使ったのだと考えられます。

この事例からもわかるように、人称代名詞は見た目の年齢から判断するだけでなく「その時の自分の気持ち」が優先される場合もあるということです。覚えておきましょう。

まとめ 敬語を表現するための3つのポイント

  1. 文末にạをつける
  2. 主語を入れる
  3. あえて年上や他人行儀な人称代名詞を使う