日本人がベトナム語の勉強で最初につまづきやすいポイントとして「人称代名詞がたくさんあり、使い方が複雑」であることが上げられます。
人称代名詞は英語だと「I」と「you」の2つを覚えれば十分ですが、ベトナム語は性別、年齢、職業、親密度合いなどによって様々な「あなた」と「わたし」が存在し、相手によって使い分けなければいけません。
つまり人称代名詞の知識や使い方が頭に入っていないと会話すら始められないのです。
ですので今回は日常会話に必須の二人称を一覧表にまとめてみました。これぐらい知っておかないと色々な世代のベトナム人と会話がスムーズにできないのでまずは全部覚えてください。
二人称一覧表
年齢区分 ※1 | 人称代名詞 | 使用対象 | もとの親族名詞 ※3 |
だいぶ年上 | Ông【翁(オウ)】 ※2 | 自分からみておじいさんくらいの年齢の男性 | 祖父 |
Bà【婆(バア)】 | 自分からみておばあさんくらいの年齢の女性 | 祖母 | |
結構年上 | Bác【伯(ハク)】 | 自分からみて両親の兄もしくは姉くらいの年齢の男女 | 伯父(父の兄) |
Chú | 自分からみて両親の弟くらいの年齢の男性 | 叔父( |
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Cô 【姑(コ)】 | 自分からみて両親の妹くらいの年齢の女性 | 叔母( |
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やや年上 | Anh【兄(ケイ)】 | 自分からみて兄くらいの年齢の男性 | 兄 |
Chị【姉(シ)】 | 自分からみて姉くらいの年齢の女性 | 姉 | |
同年代 | Cậu / Bạn【伴(バン)】 | 自分と生まれ年が同じ(※4)男女 (通常の関係)
◇Cậuは主に北部で使われます。 |
cậu=母方の兄もしくは弟(おじさん) |
Mày | 自分と生まれ年が同じ男女 (親密・粗野な関係)
◇Màyは日本語の「お前」に相当し、同年代の親友など非常に親密な関係で使う他に、年齢関係なく相手を侮辱したりする場合にも使います。 |
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やや年下 | Em | 自分からみて弟もしくは妹くらいの年齢の男女 | 弟、妹 |
結構年下 | Con / Cháu | 自分からみて子供くらいの年齢の男女
◇conは南部で、cháuは北部でよく使われます。 |
con=子供
cháu=孫 |
※1 区分は自分の年齢を基準に考えてください。
※2 【】内は漢越です。漢字も合わせて覚えましょう。
※3 二人称の単語はほとんどが親族名詞からきています。相手を自分の家族や親戚のようにイメージしながら使うと覚えやすくなります。
※4 ベトナム人は人によって年の数え方が異なるので生まれた年(西暦)を基準にして同年代かどうか判断しましょう。
二人称を瞬間的に出すコツ
上の一覧表を覚えたら次は相手によって使い分けなければいけません。実際の会話ではいちいち考えている暇はないので、瞬間的に二人称を出す必要があります。そのための考え方を紹介します。
①自分の主観でOK!!
自分から見て年齢が上か下かどうかは直感で判断してかまいません。
つまり自分より年上っぽいなと思ったら年上の二人称を、自分より若そうだなと思ったら年下の二人称をあなたが感じたとおりに決めてかまわないということです。見た目の年齢を自由にジャッジするのはあなたです。
男女の性別を間違えた二人称を使うなど、明らかに大きな言い間違いをしない限り、コミュニケーション上特に大きな問題はありません。
仮にChịと言うべきところをCôと言ってしまっても相手に適当にスルーされるか正しい二人称で言い直されるかのどちらかです。
ベトナム人でさえ二人称を間違える時はあるので気にせず自分基準でがんがん使っていきましょう。
②判断に迷ったら年上の二人称を使え!!
年下の二人称で言うべきか、年上の二人称で言うべきか一瞬でも躊躇したときには年上の二人称を使いましょう。例えばemかchịで迷ったらchịで、chúかbácかで迷ったらbácでいきましょう。
なぜなら年上の二人称を使うと丁寧、尊敬の意味を含ませることができ、実際に相手の年齢が下であっても失礼にはあたらないからです。
ベトナム人がよく年齢を聞いてくる理由
ベトナム人は会話の初めに、「Bao nhiêu tuổi(何歳ですか)?」や「sinh năm bao nhiêu(何年生まれですか)?」とよく聞いてきます。女性であろうが年をいってようが容赦なく年齢を聞いてきます。
これはベトナム人が相手の年齢を聞いて二人称を確定させる必要があるからです。見た目だけでは二人称を決めづらい場合に、先に年齢を聞いておくと会話をスムーズに行うことができます。
老若男女気にすることなく誰にでも「Bao nhiêu tuổi?」と聞き、二人称を確定させ会話を円滑に進めましょう。
トマトの体験談 ずっとanhを使ってくるおばさん
トマトが以前ホーチミン市のマンションに住んでいた時、ある部屋のオーナーのおばさんが自分に対してずっとanhを使っていました。
そのおばさんは見た目も実年齢もトマトより明らかに年上なので、本来はemを使うのが正しいはずです。しかし相手をお客様扱いし、年下であってもあえて丁寧・尊敬を含ますためにanhという年上の二人称を使うこともできます。
最初は年上のおばさんにずっとanhを使われることに違和感を感じていましたが、二人称は「自分基準で決めてよい」、「年上の二人称を使うと丁寧・尊敬を表す」ことを知っていれば一応納得はできました。
③明確な境界線はない!!
自分と10歳以上離れていたらchịじゃなくてcôになるとか、そういった原則や決まりは特にありません。
日本語の「お姉さん」と「おばさん」という単語に年齢の境目がないのと同じで、ベトナム語でも各々の単語間に明確な境界線はありません。
①の「自分の主観でOK!!」のコツと関連しているように、年齢に合わせた二人称の選択は境界があいまいだからこそ自分の感覚で判断してよいということなのです。
④自分の家族、親族にあてはめて考えよ!!
二人称の単語はほとんどが親族名詞由来です。ôngは「おじいさん」、bàは「おばあさん」、chúは「おじさん」など、ほぼ全ての二人称は家族、親族関連の名詞の意味も合わせて持っています。
自分の伯父さんに年齢が近いと思えばbácを使い、自分の弟の年齢に近いと思えばemを使うかんじで、相手を自分の家族や親戚にあてはめて二人称を選択すると会話でスッと出やすくなります。
⑤習うより慣れろ!!
二人称を血肉化させる一番のコツはとにかく間違いを気にせずどんどん実践で使うことです。ベトナム人に会うたびに、「chào + 二人称」を使って二人称の使い方を練習しましょう。
xin chàoはベトナム人はほとんど使わないし、二人称の使い方を練習できないのでおすすめしません。
キャッチボールの法則
ベトナム語の二人称は「同時に一人称にもなり、使い回すことができる」という大切な決まりがあります。同じ人称代名詞を自分と相手で投げ合っているので「キャッチボールの法則」と呼んでいます。
例えばベトナム人があなたに、“Anh khỏe không?”(あなたは元気ですか?)と聞いてきたとしましょう。相手はあなたに対して二人称anhを使っています。
そうするとあなたは相手が投げた二人称anhを一人称として受け取って、“Anh khỏe.”(私は元気です)のように使うことができます。
逆に今度はあなたが、”em khỏe không?”(あなたは元気ですか?)と相手に二人称emを投げたら、その相手はemを一人称として使い、”em khỏe.”(私は元気です)と答えてくれるでしょう。
この時anhとemは「あなた」と「わたし」という2つの意味を持ち、お互いにanh⇔emを使い回していることになります。相手が使った二人称を自分の一人称にそのまま再利用しているともいえます。
上の表にある二人称(cậu/bạn/màyは除く)はキャッチボールの法則により一人称にもなることができます。
このキャッチボールの法則は実際にベトナム人と会話しながら慣らしていきましょう。
Tôiは普段の会話では使わない
ベトナム人は日常会話でtôi(私)をほとんど使いません。
tôiは人称代名詞の使い分けを全く無視した中立的、絶対的な意味での「私」だからです。つまりtôiは全く親しみを感じず、バカ丁寧で距離をおかれた印象を与える一人称だということです(日本語でいうとtôi「わたし」ではなく「わたくし」に近い)。
普段の会話ではtôiの使用を避けて、上のキャッチボールの法則に従って相手に合わせた一人称、二人称使うようにしましょう。
また、応用として、あまり仲良くなりたくない人、距離を置きたい人に対してわざとtôiを使うという方法もあります。
まとめ
- ベトナム語は性別、年齢、職業、親密度合いなどによって様々な二人称が存在する。
- 日常会話に必須の二人称を一覧表をまず覚え、実際の会話で二人称の使い方を慣らす。
- 二人称の選択は境界はあいまいで、自分の感覚で年上か年下かを判断してよい。
- 年上の二人称を使うと丁寧、尊敬の意味を含ませることができるので迷ったら年上の二人称を使うとよい。
- 二人称の単語はほとんどが親族名詞由来なので、相手を自分の家族や親戚にあてはめて使うとよい。
- ベトナム語の二人称は同時に一人称にもなり、使い回すことができる。
- tôiは日常会話ではほとんど使わないので使用を避けること。
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