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vol.484 「村」のいろいろ

xã, ấp, xóm, thôn, làng, bản, buôn, sóc….実はこれすべて「村」と訳すことができる単語です。ベトナム語には「村」という単語がなぜこんなにたくさんあるのでしょうか?

それぞれ細かな違いを比較しながら見ていきましょう。

xã【社】=(行政単位の)村

「村」という意味の単語で最も使われるのがこのxãです。xãは居住地に記される行政の正式な最小単位だからです。

xãはthành phố(市)やhuyện(郡)よりも小さい行政単位で、人口が少ない田舎の地域で使われます。

xãは漢字では【社(シャ)】で、【社】にはもともと「農民が共同で祭る農耕地」という意味があります。農村地域に使われる行政単位だということが【社】の字からわかります。

また、頭文字をとってX.と省略されることもあります。

・Xã Nam Vân, thành phố Nam Định, tỉnh Nam Định
ナムディン省ナムディン市ナムヴァン村

làng=伝統的な農村

làngは古くから存在する伝統的な農村を表します。làngも「村」と訳せますが行政単位としての役割はなく、法的な拘束力は持ちません。慣習的な呼び方の一つと考えてください。

làngは規模的にはxãよりも小さく、数百人規模の農村共同体を指すことが多いです。

王の法は村の掟に及ばない

ベトナム語には「phép vua thua lệ làng(王の法は村の掟に及ばない)」ということわざがあります。これは「村の共同体の慣習や掟が皇帝(国)の法よりも優先される」という意味のことわざです。

昔からベトナムの田舎の農村は、政府の干渉をあまり受けることがなく、村のことは村人達で決めるといった自治意識が強い傾向があります。

このことわざにもlàngが使われているように、làngと呼ぶ所は行政の管理を受けない「自分達の農村である」という主張が表れているのかもしれません。

thôn【村】=再構成された農村

thônは「行政目線の再構成された農村」という意味です。

もともとxãは伝統的な農村であるlàngを束ねてできたものです。その各làngが集まってできたxãの下部単位を行政側が再構成し、それをthônと呼ぶようになりました。

ただしthônもlàngと同じく法的な拘束力はもたず、行政単位としての役割はありません。規模も基本的にlàngと同じです。

làngは村人目線での「村」、thônは行政目線の「村」程度の違いしかないので、làng=thônと覚えておいてもかまいません。

xóm=集落、村落

xómはさきほどのthônやlàngよりも小さい共同体の単位で「集落、村落」と訳せます。

主に田舎の農村地域で使われ、家族、親戚、隣近所などでの血縁関係が強い数十人〜数百人規模の小さな社会共同体を表します。こちらも正式な行政単位としては使われません。

xómと書かれた集落の入り口。北西部のホアビン省マイチャウで撮影。

「隣人、近所」はベトナム語でhàng xómといいます。hàngは「親族」という意味なので、xómと合わせるとベトナム語の「隣人」という概念はもともと血縁関係の強い人同士の結び付きであったと考えられます。

現在のベトナムでも田舎の地域では隣近所の結び付きが強いですが、都市部では隣近所が話したこともない赤の他人であることも多くなりました。

都市化されていくにつれ、hàng xómの元の意味から離れていくのは世の常のようです。

地方の村のいろいろ

ấp=南部の開拓村

ấpは中部高原より南の地域で使われる開拓村、開墾したての村という意味です。規模はlàng, thônと同じです。正式な行政単位としては使われません。

sóc =クメール族の村

クメール族が多く住む村をsócといいます。クメール族は南西部のメコンデルタ地方に多く分布しています。規模はlàng, thônと同じです。正式な行政単位としては使われません。

buôn=中部高原地域の少数民族の村

ラムドン省、ダクラク省、ザライ省などの中部高原地域に多く分布するエデ族、ザライ族、チャム族などが住む村のことをbuônといいます。規模はlàng, thônと同じです。正式な行政単位としては使われません。

バンメトート市は村からはじまった!?

コーヒーが有名なダクラク省のバンメトート市はベトナム語ではBuôn Ma Thuộtと書きます。村という意味のBuônが使われていますね。

また、Maは少数民族のエデ族の言葉のAmaからきており「父」という意味です。さらにThuộtは当時の民族を束ねていた首長の子どもの名前です。

つまりBuôn Ma Thuộtは「トゥオットの父の村」という語源の意味を持ちます。

もともとBuônという小さな村の単位から始まり、現在は人口50万人を超える中部高原地域を代表する都市となったのが驚きですね。

bản=北部の少数民族の村

ベトナム北部の山岳地帯に分布するタイ族やムオン族などが住む村のことをbảnといいます。規模はlàng, thônと同じです。正式な行政単位としては使われません。

看板の左下の住所にbảnと書かれている。北西部のソンラ省トゥアンチャウ郡にて撮影。

まとめ

ベトナムの行政上の最小単位はxãで、その下に伝統的な村であるlàngや再構成された村のthônが存在し、さらにその下に村落という意味のxómが存在します。

そしてlàngやthônと同じ規模で、各地方の少数民族によって呼び方が異なるbản, buôn, sócなどが存在します。

ベトナム語の「村」という単語の多さは、少数民族の多様さと、農村の自治意識の強さに深く関係していることがわかります。