ベトナムでベトナム人と仲良くなると、その人から「私の実家に遊びに来ませんか?」などの誘いを受けることがあります。ベトナムでは友好の証として、友達や客人を自分の家に招待してごちそうするといったことがよくあるからです。
その友達の家でごちそうを出され、いざ食べようとするときに、ベトナム語で「いただきます」は言わなければならないのでしょうか?またそれはベトナム語でなんていうのでしょうか?一緒に考えてみましょう。
「いただきます」はベトナム語で?
結論から先に言うと日本語の「いただきます」の意味にぴったりあてはまるベトナム語はありません。しかしそれに相当するベトナム語は一応あります。
そもそもラフで適当な雰囲気の南部では「いただきます」すら言いません。つまり何も言わずに食べ始めてかまわないということです。なので南部に住んでいる人は、いただきますはベトナム語にない、とだけ覚えてもいいかと思います。
しかし礼節を重んじるベトナム北部に住んでいる人や、日本人である以上食べる前に何かひとこと言いたいという人は「いただきます」に相当するベトナム語は覚えたほうがいいでしょう。
「いただきます」の基本形
ベトナム語で「いただきます」は以下の形をとります。
(1N+)mời+2N+ăn cơm
1Nは一人称で2Nは二人称の略です。「いただきます」は日本語では固定された言い方ですが、ベトナム語では色々なパターンがあります。それは人称代名詞が言う相手によって変わるからです。
mờiは「招待する、勧める」という意味です。そしてmời+2N+ăn cơmで「2Nがごはんを食べることを勧める」つまり「2Nさん、どうぞお食べ下さい」という意味になります。
・(cháu) mời bác ăn cơm. (自分の両親の兄もしくは姉くらいの年齢の男女に対して)
・(con) mời bà ăn cơm. (自分のおばあさんくらいの年齢の女性に対して)
・(em) mời anh ăn cơm. (自分の兄くらいの年齢の男性に対して)
そうです。通常あなたが「mời+2N+ăn cơm」と言ったら、たいてい相手から「uh, ăn đi(どうぞ食べて)」という返事が返ってくるのでそこでやっと食べられます。
つまりmời+2N+ăn cơmという文には「2Nさんがどうぞお先にお食べ下さい、私は後で食べますので。」という意味が含まれています。だから相手から「どうぞお先に食べてください」という返事が返ってくるのです。
ただこの「どうぞどうぞ」というダチョウ倶楽部的なやりとりはあくまで形式的なものです。mời+2N+ăn cơmの文は相手に食事を勧める文ですが、通常はそれを言った側が先に食べます。なので「mời+2N+ăn cơm≒いただきます」と考えていいでしょう。
mời+2N+ăn cơmの注意点
注意していただきたいのはmời+2N+ăn cơmの文は年下の人が年上に対して使い、かつその場にいる年上の人たち全員に言わなければなりません。だからもしたくさん人がいる中であなたが一番年下だったら、「mời ông ăn cơm, bác ăn cơm…」みたいに年長者一人ひとりにたいして「どうぞお食べ下さい」といちいち言わなければなりません。
えー!?めんどくせぇ~※1、と思ったあなたへ。そんな人に実は便利なパターンがあります。
このように北部ベトナム人と南部ベトナム人は習慣の違いなどから微妙な確執があります(特に南部人の北部人嫌いは激しいものがあります)。
・mời cả nhà ăn cơm
・mời mọi người ăn cơm
上の二つの文は「みなさんお食べ下さい」という意味です。cả nhàやmọi người など“みんな”を表す単語を用いれば年長者も含め全員まとめて言うことができます。とても便利ですね。筆者も北部にいる時には上のセリフをよく使っていました。
もし人称代名詞などの使用に慣れておらず、固定した表現を覚えたければ、「いただきます=mời cả nhà ăn cơm」と覚えておきましょう。
まとめ
・南部ではいただきますは言わない。
・北部などではいただきますは「mời+2N+ăn cơm」の形を使う。
・人称代名詞などの使用に慣れていなかったら、「いただきます=mời cả nhà ăn cơm」と覚えておく。